いま、自分は誰かの足を踏んでいないか。デビュー作「白山通り炎上の件」がYOASOBIにより「New me」として楽曲&MV化で話題沸騰! 新人作家・有手窓スペシャルインタビュー
怒りや問題提起をエンタメに包むと、アンテナを張っていない人のところまで届く
──「モノコン2023」で大賞を受賞されてから1年近くの時間が経ち、今秋ついに書籍化されました。この環境には慣れましたか?
有手 いえ、まだ信じられないですね……! 編集者さんが間に入り、デザイナーさんやイラストレーターさんなど、関わる人が多くて。私はただ書いただけで、それを広げてもらったな、と。だから自分の本というよりは、本のプロジェクトの一員にしてもらったという感覚のほうが強いです。
──有手さんはいつごろから小説を書かれていたんですか?
有手 同人小説といいますか、仲間内で楽しむためのものは高校時代から書いていました。でも、オリジナル作品を賞に応募しようと思ったのは、2023年の頭ぐらいです。そこから動き始めました。
──すごい。その年に応募したコンテストで大賞を受賞するなんて。
有手 何か賞に応募しようと思って、探してみてはじめてmonogatary.comさんの存在を知ったんです。公募の情報をまとめてくれている、ありがたいサイトがありまして。monogatary.comさんはウェブ媒体ですし、応募要項にあった文字数も何千字という単位だったので、ずっとオンラインのなかで横書きしていた自分にすごく合っているなと思って。そのときの私の中には、原稿用紙何枚分という概念がなかったんですよね。
──「白山通り炎上の件」のプロットはもとからあったものですか?
有手 小説を応募するにあたって、いちから作りました。「邂逅」というお題が設定されていたので、そこから組み上げていった感じです。
──読んでいていちばんに感じたのが、ユーモアと怒りが同列に描かれている作品だな、と。読みながら声に出して笑ってしまうほど可笑しいのに、古くさい社会構造に媚びへつらう主人公の姿を通して、なんだか猛烈に腹が立ってきたりもして。
有手 そうですね、主題はまさに怒りです。媚びへつらうのは、そうさせる権力構造があるから。生存戦略としてそっちを選ぶのは間違いじゃないけど、とくに女性たちはそれを選ばされがちだと思います。それがとにかくイヤだなって。以前、そういったところに問題意識を持っていらっしゃる方とお話する機会があったんですが、怒りや問題提起をエンタメに包むと、アンテナを張っていない人のところまで届くんだということを知り、自分でもやってみたいと思いました。エンタメとして楽しめる作品であれば飛距離が伸びるっていうのを経験してみたいな、と。
──そういった意味では「白山通り炎上の件」は超エンタメ作品ですよね。とても映像的で、痛快な映画を観たような読後感を覚えます。
有手 ありがとうございます。そう、アクションを書きたかったんです。今回のコンテストは「邂逅」というお題に投稿して参加完了だったんですけど、そのテーマで「アクション・バトル」のジャンルに投稿している人はいないかも……と思って、ドキドキしながら応募しました。単純に、女性が大暴れして活躍する作品を増やしたいなという思いもあって。
──短編小説のなかでいったい何回裏切るんだ!?っていうくらい、先の読めない展開もたまらない。
有手 だから読む人によって印象も違うのかもしれません。同じものを見ても出力の仕方って人それぞれ違うじゃないですか。それもまた創作物の面白いところだなと思います。今回私は小説を書きましたが、それを本にしてもらって、曲にしてもらって、MVにしてもらってという、思いがけない展開になったのもありがたいし、おもしろいし。
いま私は誰かの足を踏んでいないか、それにちゃんと気づいて、思考し続けたい。
──小説が楽曲化されるって、なかなかに珍しい体験ですよね。しかもYOASOBIがドーム公演で初披露、おまけに世界配信!
有手 何がすごいって、YOASOBIさんの楽曲ということで、世界中のファンの方々の宝物になっていく可能性もあるわけですよね。その1ピースになれたことが本当にうれしいです。楽曲から小説を知るファンの方がすぐに読めるように、「白山通り炎上の件」の英語翻訳版も配信していただいているんです。読んでもらえる可能性もどっと増えました。これはもう、本当にハイパーありがたい!
──YOASOBI「New me」は、原作者にはどう聴こえているのでしょうか。
有手 物語にカーアクションがあるから激しい感じの曲になるのかなと勝手に想像していたんですが、かわいくて明るい感じの曲になっていて。でも、そこに「嫌い」といったはっきりとした言葉が入っていて、ちょっとドキッとしましたね。
──それは有手さんが物語の随所に埋め込んだ、怒りだったりやるせなさだったりの強い感情ですよね。
有手 そうなんです。それが明るく表現されているのがすごい。小説のすっきりしたラストシーンの後から逆算して曲になっている感じだと知人が言っていて、確かになと思ったんです。最後はすっきりしても、それまでにいろいろあったじゃないですか。すべて終わったあとに回復していく感じも描かれている。冬の朝にぴったりな曲だと思います。
──小説家・有手窓の次なる展開も気になりますが。
有手 ひとまずは、次作もまた女性が大暴れする予定です(笑)。最初は自分にオリジナルが書けるのか懐疑的なところもあったんですが、実際に手を動かしてみたら意外と書けるもので、プロットからこぼれるものをたくさん詰め込めこんで、テンポや印象を変えていけるのが小説のおもしろいところだなと思います。書いていくなかで、私はこういうことが言いたかったのかとあらためてわかったりもして。なんだこれ、この感じどこで覚えたんだろうっていう不思議な感覚もあります。
──作家としての理想像はありますか?
有手 ちゃんと考えて、ちゃんと勉強し続ける作家でありたいと思いますね。どういう作品を作るかということよりは、いま私は誰かの足を踏んでいないか、それにちゃんと気づいて、思考し続けたい。自分の性格も、普段の生活を鑑みても、やろうと思えば私は社会に対していくらでも閉じられちゃう人間だと思うんです。でも、いろんな人の力を借りて、商業としての出版に携わるということはそうも言っていられない。いま、自分は誰かの足を踏んでいないか、それを意識してものを作らなきゃいけないなと思っています。
インタビュー・文 斉藤ユカ
写真 宇壽山貴久子
▼プロフィール
有手 窓(ありて・まど)
1992年 埼玉県生まれ、会社員。
▼有手窓さんおすすめの1冊はこちら!
『ババヤガの夜』王谷晶・著/河出文庫
暴力を唯一の趣味とする新道依子は、関東有数規模の暴力団・内樹會会長の一人娘の護衛を任される。二度読み必至、血と暴力の傑作シスター・バイオレンスアクション。解説:深町秋生
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選考委員長・金原ひとみさんによる「文藝×monogatary.comコラボ賞」から生まれた短編小説集。YOASOBIの新曲とともにおくる、疾走感溢れる大賞作「白山通り炎上の件」を含めた全7作を収録。
▼「白山通り炎上の件」を原作に楽曲化! YOASOBI「New me」Official Music Video
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