「コンテンツは、何度も目に触れることで色褪せない」集英社少女マンガのIPビジネスを立ち上げた「別冊マーガレット」副編集長・鬼原健さんスペシャルインタビュー!
嘘は最初に1個だけ。恋愛をいかに嘘なくリアルに描くか。
――鬼原さんは少女マンガ編集一筋だそうですね。
鬼原 入社以来ずっと少女マンガ畑です。「りぼん」「クッキー」編集部を経て、BLレーベル「君恋」、アプリ「マンガMee」などの立ち上げに携わり、今は「別マ」副編集長をしています。担当としては種村有菜先生『桜姫華伝』、持田あき先生『初めて恋をした日に読む話』、本田楓先生『従僕と鳥籠の花嫁』などの作品を立ち上げました。
――男性編集者として、少女マンガの世界に戸惑いはありませんでしたか。
鬼原 浅田次郎先生の歴史小説が好きで小説の部署も志望していましたが、マンガなどのコンテンツを創る部署に携わりたかったことと、妹がいて少女マンガにも慣れ親しんでおりましたので、戸惑いはなかったですね。少年マンガも少女マンガも、憧れや共感を入り口に読者の感情移入を重視する点は一緒ではないかと思います。少女マンガは、より人間関係や感情の変化に重きを置いていて、「こういう気持ちってあるなあ」「誰かをいいなと思う瞬間ってこんな感じだよね」という心の機微が繊細な絵とともに描かれているところが魅力ですね。
――今、異世界や転生もののコミックが躍進していますが、「別マ」で長年愛されてきたオリジナルのラブストーリーの強みをどのあたりに感じますか。
鬼原 私は「りぼん」に長くいたので、比較しますと「別マ」はリアリティでしょうか。現実の延長線で考えることで、多くの読者に親近感を持っていただけます。「嘘は最初に1個だけ」という話が編集会議でもよく出てきます。たとえば連載中のオザキアキラ先生『うちの弟どもがすみません』だと、親の再婚で弟がたくさんできて、その中に女の子が一人で入って暮らすことになる。最初に大きなフィクションが起こりますが、あとは丁寧に、リアルに感情を積み重ねています。「別マ」は恋愛をいかに嘘なく描くかという点では、ぶれずに雑誌を作っているのではないでしょうか。
今読んでほしい!「別マ」最新マンガ
――1964年に創刊し数々の名作を送りだしてきた「別マ」ですが、今の「別マ」はどんな雑誌ですか?
鬼原 読者の年齢層も広がり、非常に層の厚い雑誌になっています。河原和音先生『太陽よりも眩しい星』など、すでに多くのファンがいるキャリアの長い先生方が連載してくださっていることも大きいですね。TikTokでバズったことで更に重版を重ねた木内ラムネ先生『月のお気に召すまま』は、小学生に人気だったり。もちろん現役の中高生に刺さっている作品もたくさんあって、そのひとつが結木悠先生の『君を忘れる恋がしたい』です。
――どんな作品ですか?
鬼原 ギターの弾ける男の子ってやっぱりかっこいいと思うんです。中学生の時、彼のギターを弾く姿を見て運命的な恋をしたけれど別れてしまった二人が、大学で再会するという軽音サークルが舞台の作品です。実際に軽音部を経験していたという人にも、楽しんでいただけるように担当者が細部までこだわって作っています。バンドosageのデビューシングル「マイダイアリー」とコラボもしていて、この曲もすごくかっこいいのでチェックしてみてください!
――聴いてみます! ほかにReader Storeユーザーにおすすめの作品はありますか。
鬼原 椎名軽穂先生と咲坂伊緒先生は、チャレンジングな新連載が始まったばかりです。椎名先生の前作『君に届け』はまさに王道少女マンガでしたが、新作『突風とビート』はオカルト要素もあります。1巻から衝撃の展開があったりと仕掛けのある作品なので、ご期待ください。咲坂先生の『ユメかウツツか』の主人公はこれまでにいないタイプの内気な女の子で、少女マンガ読者の方々も「こう来たか」と驚かれるのではないでしょうか(ネタバレにならないように留めております)。こうした変化球をしっかり描ききれるのがさすがですよね。
――1巻が出たばかりの『突風とビート』はReader Storeスタッフの間でも大人気です。
鬼原 目黒あむ先生の『お姉ちゃんの翠くん』もおすすめです。どの絵をとっても本当に瑞々しい瞬間を切り取った一枚絵のように美しく、すごくかわいい。「お姉ちゃんの彼氏を好きになってしまう」というストーリーで、一見ざわつきを覚えてしまいそうなあらすじですが、誰のことも嫌いにならないように読んでいける、感情を丁寧に積み上げている作品です。僕自身、二人の関係がどうなるのか、リアルタイム読者として気になっています。
コンテンツは、何度も目に触れることで色褪せない。
――ここからは少女マンガとビジネスについて教えてください。鬼原さんは新規事業として少女マンガに特化したBtoBサイト「集英社少女マンガIPガイド」を立ち上げられています。そもそも少女漫画IPビジネスとはどのような事業でしょうか。
鬼原 IPは「知的財産」と訳され、マンガや小説をもとに映像化などのコンテンツビジネスを行うこともIPビジネスです。今回の取り組みに限定すると、IPはマンガの世界観とキャラクターを指すのが一番わかりやすいかと思います。作品の世界観やキャラクターを活かしてマーケティングやコラボ、タイアップ、商品化等を行うビジネスです。
――立ち上げはどういった思いからでしたか。
鬼原 ファンタジーバトルのジャンルは北米市場でも売りやすいためアニメ化などの引き合いが多いのですが、近年では少女マンガはどうしてもタッチポイントが少なくなってきています。現場の担当編集者が取材先で本を配ったり、人脈を通じてアピールしたりといった草の根的な努力をしていたのですが、組織としての仕組みが必要だと感じていました。
――海外展開も考えていらっしゃいますか。
鬼原 はい、ゆくゆくは多言語対応で海外ともやりとりを増やしたいですね。そもそも企画のきっかけは、韓国で行われたカンファレンスに参加した際に、現地の出版社から「作品をローカライズできないか」「縦スクにリメイクできないか」といった問い合わせを多数いただいたことや、コロナ禍でデジタルシフトが進み、これまで取引のなかったスタートアップ企業から「問い合わせ窓口がほしい」と言われたことでした。
――これからは少女マンガがドラマやアニメだけでなく、さらに色々な形で展開されていくようになりそうですね。
鬼原 何度も目に触れることでコンテンツが色褪せず、良い作品がこれからも残り続けるようにしていきたいと思います。少女マンガの過去作品ももっといろんな場所で見かける機会を増やして、魅力を長く伝えていきたいです。
――楽しみです。最後に、編集者・鬼原さんに影響を与えた作品を教えてください。
鬼原 矢沢あい先生の『天使なんかじゃない』です。一期生として高校に入り、好きな人ができて、生徒会に入って卒業するまで描かれているのですが、何度も泣きましたし、読み返しました。このマンガに憧れて僕は生徒会に入りました(笑)。ある作家さんの受け売りなんですが、学校って理由がなくても好きな人に毎日会える場所なんです。大人になって振り返ると「素晴らしい時間だったな」と思い出させてくれるものが少女マンガには詰まっているなと思いますね。
インタビュー・文 横井周子
写真 宇壽山貴久子
▼鬼原さんが編集者として影響を受けた作品はこちら!
『天使なんかじゃない』矢沢あい著/集英社
▼プロフィール
鬼原健(きはら・けん)
2006年集英社入社。「りぼん」「クッキー」編集部を経て、BLレーベル「君恋」、アプリ「マンガMee」などの立ち上げに携わる。2022年6月「別冊マーガレット」副編集長に就任。少女マンガの編集者として多くのベテラン作家の担当や新人の育成などに尽力。社内公募で「集英社マンガIPガイド」の設立を発案し、2024年7月より、少女マンガに特化した「集英社少女マンガIPガイド」の運営にも携わる。
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